★ 2000 のんびり・スイスの旅
スイス国旗  ◆ 22日目(8月1日) 快晴 【全体地図】 目次へ
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【本日の旅程】=クール(泊)、→ユーフ訪問

ユーフ村への地図
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黒い岩山 :チェイシュホルン
<Tscheischhorn 3019m>

◆ ユーフ村へ
 友人A氏が2度も訪ねたというユーフ<Juf>村に、僕らも行ってみることにした。此所も日本のガイドブック(ミシュランのグリーンガイドは除く)には記載がない。A氏の話では、此の地も秘境といわれているそうだ。なるほど、地図で見る限りでは、ユーフはアヴェルザーライン<Averserrhein>渓谷の最奥に位置しており、道はこの村で行き止まりになっている。そんな山奥にも人里があることに驚くが、この村がヨーロッパ最高度(2126m)に在る村なのだそうだ。一体どんな険しい山々に閉ざされているのであろう。秘境のイメージを膨らませ乍らホテルを後にした。
 クールの街は閑散としていた。ユーフの情報をもらおうと思いインフォメーションに立寄ってみたが休みであった。通りの店もみんな閉っている。「そうだ、今日はスイスの独立記念日じゃないか、祭日なんだ」と思い知らされた。


◆ 満員のバス
 出札係のオジサンは親切で「ユーフに行ったことがある」とのこと、「いいところか」と質問したら、ちょっと困ったような表情をした。Thusisで下車、バス発着所に行く。ユーフ行きのバスは、すでに満員であった。乗り切れない客が沢山居て、もう1台を増便してくれることになった。日本だったら間違いなく「詰めて下さい!」と呼び掛け、1台に押し込んでいるところであろう。此所では座席が全てふさがることを満員と言うらしい。思えば、スイスには何度も来ているが、公共の乗り物でギュウギュウ詰めになったことは1度もないし、見たこともない。この国では、乗るひと、つまり主役の人間が大切にされていると実感するのである。今日も、ゆったり座席に座って寛ぐことができた。それにしても、ユーフへ向かう人の何と多いことか、内心驚いていた。


◆ 渓谷から草原へ
 バスは渓谷に沿った細い道を慎重に走った。谷は大きく開けたり狭い山峡になったりし乍ら、南東の方向に伸びていた。バスは、森に幾つも流れ落ちる滝の近くを走り抜け、アウサーフェッレーラ<Ausserferrera>村を横切るといくつかのトンネルを潜った。クレート<Crot>村を過ぎると、道は急に登り坂になり、みるみる視界が広がり、林の中から草原に飛び出したように思われた。左右に迫る大きな山塊はなだらかな斜面で繋がり、そこは一面草地で被われており、青空のもと真夏の太陽に曝されていたからである。まもなく山頂に雪を残した黒く大きな岩山【写真】が望まれ、その麓に数軒の家が建つ人里に近付いた。道はここで行き止まりになっており、ユーフ村であることを示す看板が立っていた【写真下左】。周囲を山に囲まれてはいるものの、あまりにも明るい秘境の村であった【写真下右】。少し困った顔をした出札のおじさんが思い出された。
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ユーフ村に到着
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明るい秘境のユーフ村


◆ アツイデスネー!
 この村から幾つかのトレールがあり、いつの間にか多くのトレッカーたちは、山に姿を消してしまった。僕らは東側の斜面を少し登り、渓流のそばで昼食を済ませた。家内には農家を改造した小さなレストランで休んでいてもらうことにし、僕はもう少し上まで登った。陽影を提供してくれる樹木など何もないので、家内の傘を借りて黒い岩山:チェイシュホルン<Tscheisch horn 3019m>を写生した。1枚描き終わったところで下山。家内と合流して、冷たいビールを飲むことにした。
 レストランのテラスには大きなパラソルが4・5本花咲かせており、サングラスをかけた客で賑わっていた。「それにしても、暑いなー」とこぼし乍ら、空いているテーブルを探していたら、日本語で『アツイデスネー!』と声がかかった。吃驚して声の主をみたら、勿論外人。ニコニコしながら、椅子を勧めてくれた。35年も昔になるが、仕事で東京の渋谷に住んでいたことがあると言う。チューリッヒから来てバカンスを楽しんでいるというとても感じの良い夫婦であった。一緒のテーブルを囲み、日本語で当時を懐かしみ乍らの歓談。楽しいひとときを持つことが出来た。


◆ 平和な村ユーフ
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独立記念日を祝う窓辺
 極めて小さな村ではあったが、ひと回りしてみた。広く開けた山麓に草刈りをしている村人の姿があった。その近くを2匹の大きな犬がじゃれ合いながら走り回っていた。はしゃいだ犬の鳴声が風に運ばれ近くに聞こえた。遠くにも農家が散在しており、それらを見守るがごとく、小さな白い教会が建てられてあった。質素な農家の窓には、国旗と花が飾られていた【写真】。こんな山奥の小さな村であっても、自国の独立記念日を祝う人たち、スイスに生きていることに喜びと誇りを抱いているのであろう。いささか妬ましく思えてしまった。しばし草原に佇み、ぼんやり周囲の景色を眺めて時を忘れた。平和な光に包まれたこの村の時間は、動きを止めていたように思う。バス停の前の小さな土産店で絵はがきを買い求め、Uターンをしてひっそり待ちわびていたバスに乗り込んだ。


◆ 独立記念日祝賀の打ち上げ花火
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装飾されたホテルの階段
 夜10時から、独立記念日を祝して花火が上がるというので、街に出てみることにした。ホテルの階段には赤い容器にローソクが灯され壁には国旗が飾られて祝賀ムードを高めていた【写真左】。爆竹が遠くで鳴り、打ち上げられた花火の音が聞こえてくる。通りに出ると、ブラスバンドのパレードがあり、人は皆同じ方向へ向かって行くので、僕らも一緒に歩いて行った。そこは街の運動場であった。暗がりに小さな提灯が揺れている。持っているのは子供たちであった。スイスで提灯を見るのは始めてであった。それは各々に楽しく大胆なデザインで造られていた【写真下左】。同じ提灯でも、日本のそれとは大違いである。それだけに新鮮であり心ときめく出逢いであった。

 談笑している大人たち、花火を楽しんでいる子供たち、キスをくりかえす若者たちなど、誰も演台での挨拶など聞いてはいない。しかし、1年に1度、自国の誕生日を国民がこぞって祝賀しようとしている、なかなかいいものである。そのうち夜間照明が消えて、打ち上げ花火が始まった。日本のものには到底及ばないものではあったが、美しく夜空を彩った【写真下右】。遠くの丘(山?)の頂上には、漆黒の空を背にしてスイス国旗の十の字が点灯されチカチカ光り輝いていた。
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スイスの提灯を持つ子供達
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祝賀の打ち上げ花火

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