前回と違って、左足の血流が悪いのは大きなハンディであるが、少々負荷を与えた方が、血流促進の為には良いだろうとの判断もあったので、あえて足が重くなる辛さを我慢し乍ら歩き続けた。足の不調は兎も角、今日は何故か、息切れがして体が重い。久しぶりの山道だから、やむをえないかな、それにしても体力が落ちたものだと自嘲しながら、慎重に足を運んだ。
足が酸欠状態になると痛くなり重くなるが,5分も休めば又歩けるようになる。平地を歩いている場合とは大分違うが、気持ちとしては、リハビリに耐えているつもりであり、試練も尾根筋までと思えば頑張り甲斐もあるというものだ。残りわずかだな・・・と思い始めた頃、気力を振り絞って歩き続けようとしたが、息苦しくてならず気分も悪くなり、ひたすら休みたいと思った。腰掛けるのに具合のよさそうな岩石を見つけて腰を下ろした。
初めてゆっくり追い越して行った家内が声をかけてきた。「休むのなら此処迄来てごらんよ、とても見晴らしが良いから。」見上げると、凡そ10メートル位の距離である。再度、声をかけてきたが、動けなかった。足もさることながら胸まで酸欠状態である。体調不良のまま登ってきたから、一種の高山病症状かもしれない。体力の限界かな?とも思う。腰掛けているのも辛くなり、岩の斜面に頭を預けて休んだ。異常に気がついたらしい家内がかけ下りてきた。とにかく、しばらく休息したい。休息しなくてはいけない、と思った。今迄に体力の限界を意識したことは何度も体験してきたことだし、きっと回復出来る。経験的に大丈夫だと思った。
尾根迄もう一息のはずだから、少し休めば行けるだろう。狭い山道だが、家内にも言われて横になりザックを枕にして足を伸ばした。心配をかけることになってしまったことを、つくづく情けなく思い乍ら、眼を閉じた。しかし、地面は冷たく、容赦なく体温が奪われていく。寒い。家内は持ち合わせの衣類を全て出して体を包んでくれた。
「どうしましたか?大丈夫ですか?」登って来た中年のカップルが声をかけてくれた。「水はあるか?食料はあるか?携帯をもっているから、救助を頼んであげようか?」と心配してくれる。休息とれば大丈夫と答え、お礼を言って先に行ってもらった。間もなく次々とハイカーがやってきた。異口同音に同じことを尋ね、心配してくれた。それにしても、何たる醜態。奪われた体温が大きすぎたのであろう。悪寒が走り、全身に震えがきて止まらなくなった。これでは休息にはならないし、寒さと恥ずかしさに耐えられなくなり起き上がった。ジャケットのボタンを嵌めようとしても、両手がガタガタ震えて果たせなかった。
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